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タイプライター

大学生の時、専門課程の選択で英文タイプの講義を取っていた。おかげで所謂 qwerty 配列でのタッチタイピングができるのだが。

ふうこが講義を受けていた当時、学校の備品の英文タイプライターは電動ですらなかった(時代的にはタイプライター自体が化石です、もちろん)。ノーマン・ロックウェルの絵に出てきそうな、ぼってりとしたフォルムにキーが立体的に並んでるやつ。押すと先っぽに活字がついたアームが飛び出してきて、がしょん!とかいいつつ布製のインクリボンを紙に押し付けて印字する。キーの重さはピアノの鍵盤並み。特にシフトキーは、押している間だけアーム全体を大文字用セットに入れ替える仕組みで他のキーよりはるかに重く、小指できっちり押さえるには大変骨が折れた。

ワープロと比べた時、タイプライターの最大の特徴というのはやはり修正が利かないということだろう。300 字くらいの手紙文を入力してても、ひとつ間違えれば最初からやり直し。失敗しても印字が薄かったり、形の似た字を打った時はこっそり上から強く打ち直したりしたけれど、講師にはお見通しできっちり減点された(減点が 5 つ以上で再提出)。また、右寄せは自分でマージンや文字数を数えて打ち始めの位置を調整しなければならないし、レイアウト見本がない課題だと改行位置も自分で考える必要があったり、大雑把な性格の人には本当に難儀な講義だった。ふうこも講義中に課題が終わらず、何度か講義のない隙にタイプ室を借りた思い出がある。

機械も古いものだけに当たり外れがあって、かなり強く打たないとアームが上がりきらない字があるとか、シフトキーを押し込むと引っかかって戻ってこないとか、キャリッジ(印字する紙を挟む装置)の滑りが悪いとか、殆どがどこかしら使いづらかった。が、修理に出すと授業を受けられない人が出てくるし、自転車を一度倒してしまうとブレーキがキーキー言い始めるのと同じで、出したところで完全に直りはしない。講義の日はなるべく早く来て席を選ばないと要らない苦労を強いられたりした。

ちなみに、英文タイプライターのキーは実は PC の qwerty 配列のキーボードとちょっと違う。まず、キーに数字の 0 と 1 がない。それぞれ大文字のオー(O)、小文字のエル(l)を代用するのだ。ローマ数字はアイ(I、i)とブイ(V、v)、エックス(X、x)を使う。PC 上ではローマ数字は所謂機種依存文字だが、回避する方法はこれで覚えた。…今でも英語圏の人はローマ数字を使う時 i だの v だのを利用するのだろうが、視覚障害者用の音声ブラウザなんかで読みあげる時はどうなるんだろうか。

タッチタイピング (touch typing)
ブラインドタッチという呼称は politically incorrect だと言われている。本文に戻る

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