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法月綸太郎『生首に聞いてみろ』

ひっさびさにまともなエントリ。…いや、ふうこに多くを期待されても困るけど。

生首に聞いてみろ

で、新年最初の読書です。父親は警視庁の警視、息子は作者と同名のしがない推理作家で名探偵という、エラリー・クイーンにリスペクトしまくりのシリーズ最新長編。2005年版『このミステリーがすごい』『本格ミステリ・ベスト10』でそれぞれ第1位に輝きました。新年の一発目としてはベタなチョイスですが、実は出た時から挑戦的なタイトルが気になっていた作品でもあります。

が、そんなつかみの割に中は意外にあっさり味。陰惨なシーンもあるし、大きな謎もあるけれど、読者の気をそらさない程度に淡々と進んでいく物語は端正そのもの。何となく全体が見えているパズルのピース、これだろうと安直に決めたものは実際にはめてみると今ひとつで、あれでもない、これでもないとはめては外ししている内に、いつの間にか一つずつ埋まっていき、最後の一つがぴたっ。とはまったところでああ、こういう絵なんだと改めて納得する感じ。絶妙なバランスを楽しむことができました。

でもぶっちゃけた話、読後は今ひとつすっきりしませんでした。それは物語がどうとかトリックがこうとかいうより、この作者の作品特有の後味の悪さの発露なんですが。本格ミステリのくせに、解決がもたらすカタルシスより『殺人』というものが関わる者に及ぼす負の力を妙に強く感じる時があるんですよね。当事者だけでなく、彼らに関わった第三者の人生さえも微妙に歪められて二度と元には戻せない、そのある種暴力的なエナジーを、華麗なトリックの裏にぴったりと吸いつくように嫌らし〜く描くのがうまい作者(笑)。あと、内に卑屈で矮小なものを抱えている中年独身男の表現もうますぎ。それが主人公だったりするもんだから、しばらく暇つぶしですら読みたくなかったこともあったりします。

ま、今回の彼は割と探偵役に徹して(ここでいう探偵役とはどちらかというと事件の狂言回しで、事件そのものは結局行き着くところまで行ってしまう)、我を張らなかったので、そこまで苦痛はなかったんですが。むしろあまりキャラが立ってなかったような…? とはいえ、聞けば綸太郎ものの長編は約10年ぶりとか。実時間で数えれば、ニートと紙一重の独身中年も諦観に似た落ち着きを手に入れる年頃にさしかかっているのかも知れません。


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