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三十路の藪に分け入る

突然ですが、ふうこは高校時代、学校に内緒で CD レンタル屋でアルバイトをしていたことがあります。時給は安かったですが、商品知識を養うという名目でタダで CD が借りられたり、音楽情報誌もたくさん置いてあったりして結構楽しい職場でした。

そんなある日、仕事中に同年代のバイト仲間の女の子が、カウンターに放り出してあった音楽雑誌の1ページを指して私この人のファンなんだーと話しかけてきました。そこにはある男性アーティストの写真がでっかく載っていて、アオリには30歳になったけどまだガキですよ。政治のことなんか全然分からないしという主旨のことが書いてありました。

それが目に入った瞬間、何がぴきーんと来たのか、ふうこの口をこんな言葉がついて出ました。

30歳にもなってガキぶってんのはどうなのかなぁ

それを聞いた彼女は顔をぱっとこちらに向けました。その表情には鼻白んだ様子がありありと浮かんでいて、はっとしたふうこは思わずいや、(この人のことは)あんまり知らないけどとあまりよろしくない言い訳をしていました。案の定、その言葉で彼女の顔はみるみる紅潮し、何も知らないのに文句言わないでと言ったきり横を向いてしまいました。

それからしばらくの間、二人は重い沈黙の中で仕事をしていました。こういう時には下手に謝ると大抵おかしな方向に進むものです。が、何故かその時のふうこはこれだけは言っとかないとという決意のもと口を開きました。

悪口みたいになったのは悪かったけど、やっぱり30歳になっても『政治が分からない』みたいなことを言ってちゃいけないと思う

彼女は何も答えませんでした。

あの時、彼女がそうかもしれないと思ったかうるせーバカと思ったのかは知る由もありません。問題のアオリが果たして一種の謙遜からくる発言だったのか、何かのポーズだったのか、はたまた編集の綾だったのかも分からないままです。

でも、その時の印象は胸の底にずっと残り続けて、あの頃には1bitも想像できなかった人生を歩んでいる今でも変わらずひとつの道筋を訴えています。

たとえポーズでも、モラトリアムを誇るような大人にだけはならないでいよう

そんなこんなで、ふうこ本日をもって30歳になりました。特に感慨はありませんが、あの頃の私に誇れる自分かどうか。それだけが気がかりです。


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