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恩田陸『夜のピクニック』

夜のピクニック

例によって恩田陸の最新刊です。

さる地方都市の進学校で行われる不思議な行事「歩行祭」。朝から次の日の午前中までかけて 80km を歩き通すこの全校行事はまた、高校3年生を迎えた少年少女たちにとって最後の学校行事でもあった。

何と言うか、何もかもが懐かしいお話です。マラソン大会と遠足を一緒にしたようなそのイベントは、生徒たちが自分の中の何かと対峙するために十分すぎるほどの時間と環境を与えます。様々な思惑をその中に数えきれないほど孕み、歩行隊は意気揚々と、時に黙々と歩き続け、その果てに起こる小さな、でも当事者にとっては大きな奇跡は、アホだった自分の少女時代も一緒にきれいな思い出に昇華してくれました。久しぶりの大ヒット。

多分、そんな風に感情移入できたのは恩田作品には珍しく「完璧に美しい存在」が出てこないからでしょうか。同じ高校生の心の機微を描いた作品でも『ネバーランド』や『蛇行する川のほとり』にはそういう雰囲気がどこかに漂っていて、私は面白いけどどうでもいい他人の話を聞いているような気分になってしまうのだけど、この作品では「歩行祭」がそういう存在を許しません。どんなに文武両道、才色兼備でも、目の前に体力の限界を突きつけられては心の隅の矮小な悩みを隠す余裕を持てなくなるのです。でもそれが、すごくいい。今夏、ノスタルジックでちょっといいお話が読みたい方にお勧めです。


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