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中町信『模倣の殺意』

先週末の連休に今を時めく『愛・地球博』に行って参りました。土曜日に名古屋入りして、日曜の朝から夕方まで万博を冷やかして帰ってきたんですが、まぁえらい込みようで。やれリニモに乗るといっては1時間並び、ゲートをくぐるといっては1時間並び、パビリオンに入るといっては並び、トイレで並び、食事で並び、園内移動のゴンドラで並び、IMTS で元居た場所に戻るといっては並び。ついでに土曜の夕飯に出かけた「いば昇」でも1時間並んだし、帰京間際に名駅の地下街の「矢場とん」でも30分並んだ。いくら何でも嫌気が差すわ。…ま、ガイド本に載ってる店とか、入場者数記録を大きく更新した日とかにわざわざ特攻(と書いてぶっこみと読む)かけちゃったんだけどさ。

模倣の殺意

で、今回の読書は、そんな行列尽くしの旅行で唯一並ばなかった丸善名古屋栄店での戦利品。店長さん(?)がミステリファンということで、こっそりミステリ系の品揃えが充実しているお店です。…と言っても、私がここで店長の独自ルートで入荷した貫井徳郎『慟哭』の著者サイン本を手に入れたのはもう数年前の話で、丸善の従業員は異動もあるし、今はどうなのかよく分からなかったんですが。ま、結局サイン本はなかったものの、全く聞いたことのない作家に鮎川哲也氏激賞『慟哭』に次ぐ驚愕のラスト!などという手書きポップが付いているあたりに往年の嗅覚を感じて入手。…ああー長ぇ導入。

さて、上でさらっと聞いたことないとか言っちゃいましたが、それは実はふうこの不勉強。本作は1971年に『そして死が訪れる』のタイトルで乱歩賞の最終候補に残り、『模倣の殺意』のタイトルで雑誌連載された後『新人賞殺人事件』のタイトルで出版されたのが1973年。まだ生まれてませんよ私は。で、さらに紆余曲折あって2004年8月に創元推理文庫の仲間入りをしたのがこの版になります。店頭の『慟哭』に次ぐというアオリ+知らない作家=現代の話、と早合点して読み出したら文体に昭和のにおいがぷんぷんしてて面食らいました(^^;

で、読み終わってどうだったかと言えば。ハイ、驚きました! 30年も前に、しかも処女作でこんなミステリ書いてた人がいたんかい! 「新本格」なんてジャンルが単なる二番煎じの集まりに思えるほどアクロバティックだ。…尤も、あとがきを読むと今版ではより「現代の嗜好に合った」改稿が入っているようで、むしろ『新本格ムーブメント』なるものが世にあったからこその再出版だったことも窺い知れますが。それでもアイデア自体は30年経った今でも色褪せるものではなく、久しぶりに気持ちよく騙される快感を味わうことができました。

ただ、『慟哭』と比べてどうこう、というのはちょっと違う気がしました。ふうこ的には、『慟哭』とはトリック云々よりあの「慟哭」するシーンを目指して読み進むもので、そうだな、高村薫『マークスの山』とか乃南アサ『凍える牙』とかと同じような、警察小説よりの分類に入ってるんですよね。でも本作はもう、がちがちの推理小説。例えるなら東野圭吾『どちらかが彼女を殺した』にちゃんと答えが書いてあるといった風情の鬼ミステリ(注:ふうこの造語)です。ふうこの乏しい読書歴の中でテイストが一番似てるのはバリンジャー『歯と爪』でしょうか。アイデアや展開は別にかぶってませんから、今回の改稿で「読者への挑戦」にあたるページが挿入された、というのが一番大きいとは思いますが。

それにしても、今回の改稿はかなりの曲者です。今ちょっと Amazon で『新人文学賞殺人事件』(1987年徳間文庫刊の同作)のあらすじ読んだらあり得ないネタ割りされてた。…いや、あらすじ書いた人が悪いわけではなくて、この時点では本当にそう説明するのが自然な文章構成だったってことらしい。今回の改稿がいかに『新本格ムーブメント』で培われたものに頼っているか、というのがよく分かります。当時はこんな文章、恐ろしくて世に出せなかっただろな。


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