CONTENTS

恩田陸『酩酊混乱紀行「恐怖の報酬」日記』

酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記

前回に引き続き、「小説以外」を。著者初の紀行文です。

さて、早速ネガティブ自分話ですみませんが、ふうこは基本的に「紀行文」というものが好きではありません。自分が行ったことのある場所の話ならなおさら。何故かと言えば、自分が行った時に気づかなかったことを体験している様を見ると腹が立つからである。…我ながらとんでもない狭量さだ。

でも実際の話、イギリス旅行に行ったお友達の旅行記を読んだ時にもっとイギリス人作家の本を読んでおけば、自分のイギリス旅行ももっと面白かったのかなぁとこっそり臍を噛んだ覚えがあるので、小説家になった今でも年に200冊本を読むという著者のイギリス・アイルランド旅行を題材にした本作は、ふうこ的にかなりの確率で積んだまま腐っていく候補だったわけです。が、日本全国で夏日を記録した週末の手持ち無沙汰の埋め草に何故かフィット。全く、何がきっかけで壁を越えるか分かったもんではありません。…そんな大した壁でもないけど。

さてこの紀行文、そんなに厚い本でもないのに紙面の多くが旅先の話に直接関係しない「あるもの」に費やされています。それは飛行機。氏は、飛行機にひどい恐怖感を抱いていて、不惑に手が届く年齢になるまで海外旅行に出たことがなかったのだそうです。

ふうこは諺どおり高いとこが好きなので、実家に帰る時は大抵飛行機を使います。東京-広島間は新幹線との競合があるおかげでまぁまぁ安いし、航路が晴れていると見える裏富士も楽しみのひとつです。でもなかなか見られないんだよね~。計画性がないから進行方向左の窓側の席がなかなか取れないし、富士山上空に雲があるとダメだし。そうそう、実家で体調を崩した時に無理矢理帰京できたのも飛行機のおかげです。細切れに1時間ずつの移動なら4時間耐えられるが、通しで4時間は無理だもん。

そんなだもんで、氏の飛行機に関する強迫観念ときたら、もうおかしくてしょうがない。非常時に使う酸素吸入マスクの説明を聞きながらパニック時にうまく扱えるかを心配するのはあることだが、私の分だけ目詰まりしてるかもしれないではないか!って、昨今はないともいえないからアレにせよ、あまりの錯乱ぶりに失笑を禁じえない。いやもう、これは笑ってやるのが供養(何の?)というものだろう、とゲラゲラ笑う。飛行機の話が始まるところと終わったところに挟まる著者の心象風景をあらわした影絵も秀逸。これが常々イギリス人作家が好きだと公言し、ゴシックロマンに憧れた少女時代を過ごした人なのだからなおさら哀れである。まさに『恐怖の報酬』。

それでも苦労の甲斐あって、アイルランドの丘陵地で語るべきお話の断片を見出したらしい作者。いつもだったら微かな悋気を感じるところだが、何となく頑張ってくれ…と心から思った入梅の週末でした。


NAVIGATION

Profile